『これからの建築入門』 松村秀一 著
「つくる」を問い直す。現場から考える建築の本質
初心に立ち返るための一冊
「これからの建築入門<自分でつくる>を取り戻せ」は、建築に関わる仕事をしている私が、あらためて基礎に立ち返りたいと思い手に取った一冊です。
学生時代のように、もう一度シンプルな言葉で建築を捉え直したい。そんな気持ちに応えてくれる本でした。
2025年10月刊行の岩波ジュニア新書であり、中高生向けに書かれていますが、むしろ社会人経験を積んだ今だからこそ、その内容が深く響くと感じました。
「建築生産」という視点
本書の軸となるのは、「建築生産」という分野です。
それは、単に建物を設計する・つくるという話にとどまらず、「どのような人や組織が関わり、どのような意思決定と行為によって建築が形づくられるのか」という、社会的・産業的な仕組みを読み解く視点です。
この視点から語られる現代の建築は、とても具体的で、実務に近い温度感を持っています。
専門的でありながらも、平易な言葉で説明されているため、読者の立場を問わず理解しやすい構成になっている点も印象的でした。
「使う人」を忘れないという原点
学生時代は、どうしても有名建築家や象徴的な建築作品に目が向きがちでした。
国内外を旅して名建築を巡り、その空間を体験することに夢中になっていた時期もあります。
しかし本書は、そうした視点に対して静かに問いを投げかけます。
建築には必ず、それを使う人が存在するという当たり前の事実。
そして、つくる側は常にその存在を意識しなければならないという原点。
実務に携わる今、その重要性を日々感じているからこそ、この言葉は強く胸に響きました。
現場のリアリティと未来への視点
本書では、近年注目されている木造建築の産業構造や、職人不足といった課題についても触れられています。
それらは単なる表層的なトピックとしてではなく、「つくる側」の視点から語られており、現場のリアリティが感じられる内容でした。
特に印象に残ったのは、ロボット技術と職人の関係についての記述です。
効率化が求められる現代においても、主役はあくまで人であるべきだという考え方。
機械の導入が進む中で、もしその前提を見失えば、仕事そのものの魅力が失われてしまうかもしれない。
そうした指摘に、日々の業務の中で無意識に効率を優先していた自分自身を省みるきっかけをもらいました。
今だからこそ面白い分野
正直なところ、学生時代の私は「建築生産」という分野に対して、どこか地味で現実的すぎる印象を抱き、あまり関心を持てずにいました。
しかし社会人として経験を重ねた今、むしろ最も興味深い領域のひとつになっています。
建築は決して一人では成立せず、多くの人の関わりと積み重ねによって形づくられるものです。
その過程に目を向けることで、建築の見え方そのものが変わってくる。
本書は、その気づきをやさしく、しかし確かな言葉で与えてくれる一冊でした。
平易な語り口に導かれながら、あらためて建築と向き合う時間を持てたことに、素直な感謝をしたいです。良い読書体験でした。






