『カレーの時間』寺地はるな著
食卓からつながる家族の記憶。やさしさが沁みるホームドラマ小説
図書館で出会った、あたたかな物語
カレーの時間は、図書館の本の紹介コーナーに置かれていた一冊。
美味しそうなカレーの写真が印象的な背表紙を見て、なんとなく手に取りました。おそらく、あたたかなホームドラマのような物語だろうという予感があり、その直感に従って借りてみることにしました。
実際に読み始めてみると、その予感はいい意味で裏切られることなく、静かでやさしい物語が広がっていました。
祖父と「僕」、二つの視点
物語は、祖父と20代の「僕」という二つの軸で進んでいきます。
さらに、「僕」の母とその姉妹、そして「僕」の姉や従姉妹たちといった家族の物語が重なり合い、一つの大きな流れを形作っていきます。
祖父は、いわゆる“昭和の男”という言葉が似合う人物で、頑固な一面を持ちながらも、強い正義感を持っています。その思いやりは決してわかりやすいものではありませんが、行動の端々ににじみ出ていて、読んでいてじんわりと伝わってきます。
一方で「僕」は、現代的な感覚を持つやさしい青年です。しかし、その内側には彼なりの正義感があり、どこか祖父と通じるものを感じさせます。
時代も価値観も異なる二人が、見えないところで似ているという構図がとても印象的でした。
大阪の空気と軽やかな会話
物語の舞台は大阪。
登場人物たちの会話が多く、テンポよく物語が進んでいきます。そのやり取りが自然で心地よく、まるでその場にいるかのような感覚になります。
関西特有の距離感や空気感も相まって、登場人物たちの関係性がより生き生きと感じられました。
カレーがつなぐ記憶と時間
タイトルにもある通り、本書にはカレーがたびたび登場します。
「僕」が作る料理はどれも自然で、特別に誇張されることなく、さりげなく「料理が上手い」ことが伝わってきます。
そしてその背景には、祖父が現役時代に勤めていたカレーメーカーの存在があります。
カレーという一つの料理を通して、世代を超えた記憶やつながりが描かれているのが印象的でした。
食べ物は、単なる生活の一部でありながら、人と人を結びつける力を持っているのだと改めて感じます。
読書のバランスを整えてくれる一冊
最近は、少し重たいテーマの小説を読むことも多いのですが、本書のように食べ物を介したホームドラマ的な作品を、合間に読むことが増えています。
重い物語と、こうしたあたたかな物語。
どちらにもそれぞれの良さがあり、交互に読むことで読書のバランスが自然と整っていくように感じます。
本書は、派手な展開があるわけではありませんが、日常の中にあるやさしさやぬくもりを静かに描いた作品です。
読み終えたあと、少し心がやわらかくなる。そんな読書体験を与えてくれる一冊でした。
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