『川のほとりに立つ者は』 寺地はるな 著
■“そっと寄り添う物語”に触れて
寺地はるなさんの『川のほとりに立つ者は』を読んだとき、最初に感じたのは「静かなのに、胸の奥がじんわり温かくなる」ような感覚でした。派手な展開ではないのに、登場人物たちの小さな表情の揺れや、言葉にできない思いが、私の中の“見ないフリをしていた気持ち”に触れてくるようでした。
■しんどい時期に読んだからこそ、響いた
実は、私は少し前まで職場のことでかなりしんどい思いをしていました。上層部の理不尽な言葉に傷ついたり、強い口調に萎縮したり、心も体も疲れきってしまったことがあります。
そんなときに“嫌いな人の機嫌はとらなくていい”“嫌いな人から離れられてラッキーと思えばいい”という言葉に出会い、そこからやっと呼吸がしやすくなりました。自分をすり減らしてまで誰かの期待に応えなくていいんだ、と腑に落ちた瞬間でした。
そういう時期に本書を読んだからこそ、物語の中の「善意の押しつけ」や「こうあるべき」という思い込みが、妙に自分事のように響きました。
■“良かれと思ったのに”の奥にあるもの
作中では、相手のためを思ってしたことが、実は相手を追い詰めてしまう場面があります。
「手を差し伸べたんだから感謝してもらって当然」という空気や、
「相手の背景をわかったつもりになっている自分」
——そのどれもが、私自身にも少なからず心当たりがあって、少し怖くなるほどでした。
以前の私だったら、主人公と同じように“善意の側”にいるつもりで、相手の気持ちを勝手に決めつけていたかもしれません。余裕がなかった時期の自分を思い返すと、そんな可能性に気づけたのは、ある意味この本のおかげです。
■距離を取ることで、優しくなれることもある
この物語のテーマのひとつは、「人と自分の距離の取り方」だと思います。
川のほとりに静かに立って、流れを見つめるように、一歩だけ離れてみる。
それだけで、相手の姿や気持ちが少し違って見えることがあります。
強がらなくていいし、全部を理解しようとしなくていい。誰かに100%寄り添えなくても、それは“冷たい”のではなく“誠実”なのかもしれません。
■しんどい時こそ読みたい一冊
人間関係に疲れたり、理不尽な言葉に傷ついたりして、自分を見失いそうになっていた私にとって、この本は小さな休憩所のようでした。
“こうあるべき”から少し離れて、“今の自分でいい”と思える余白をつくってくれるような温かさがあります。
もし今、誰かの言葉に振り回されたり、心のどこかがちょっと痛んだりしているなら、この物語は静かに寄り添ってくれるかもしれません。
