Marron_Creamのブログ

読書記録をメインに、お出かけなど日記風に書き連ねています

読書日記#98

『i アイ』西 加奈子 著

 

 西加奈子さんの作品を読むのは、今回が初めてでした。テレビなどでよく取り上げられている印象が強かったので、「そのうち読めばいいかな」と思いつつ、なぜか距離を置いてしまっていたのです。そんな中、図書館でふと本書を手に取り、ぱらりとめくった瞬間、物語の空気がふわりと心に入り込んできました。海外と日本、アメリカ人の父、日本人の母、シリアから迎えられた女の子──ただの“設定”ではなく、彼女の心の軸をつくる重要な背景として、すでにページからにじみ出ているように感じました。

■ “読む”というより“感じる”作品

 読み進めるうちに、『i』はこれまで読んだどの作品とも違う読書体験になると気付きました。静かな映画を観ているような作品が好きな私ですが、この本はそれ以上に“感じる”部分が多く、まるでアート作品に触れているような感覚でした。言葉はやさしく、でも芯があって、アイの揺れ動く気持ちがじわじわと胸に広がっていきます。

 

■ 「アイ」という名前が教えてくれるもの

 物語の中で特に心に残ったのは、主人公の名前です。
父が好きだった日本語の“愛”。
母が気に入った英語の“I”。
そして本人が抱える、小さな「i」の感じ。

 この名前の象徴性が、彼女の内面に寄り添うたびに胸がじんとしました。恵まれた環境にいることへの罪悪感や、自分だけが安全な場所にいる理由への疑問──その思いは特別なようで、実は誰もが抱える“自分とは何か”という問いにつながっています。

■ 心にそっと触れる余韻

 西加奈子さんの筆致は、情景の描写だけでなく、心の機微までも丁寧にすくい上げています。風の匂いや光の温度、人々のざわめきが、アイの感情とともに鮮やかに立ち上がり、読み手の心にも静かな波紋を広げていくように感じました。読了後は、胸の奥にやわらかな温度が残ります。迷いや不安を抱える自分を、そっと肯定してくれるような物語だと思います。

『i(アイ)』は、静けさの中で自分の輪郭を見つめ直したくなる一冊です。
読むタイミングを選ばず、ふと立ち止まりたい瞬間に寄り添ってくれる本だと思います。